想い出の「おしるこ」

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 それから何分まったのだろうか、不意に柔らかな湯気に包まれて私の前に現れたのは、甘い香りが飲みつかれた胃を優しく刺激してくれるお汁粉だった。    「お汁粉かい?またかわったチョイスだね。」  「はい、では甘いのはお嫌いでしたか?」  「いや、嫌いではないが好きでもないがね。」  「それはまたまた申し訳ことを…」  「そんな気にしないでください、お任せと言ったのは私ですし、それにとても美味しそうです。」  私の言葉を聞いて女性は安堵したような表情を浮かべると、冷めないうちにどうぞと、今度はぬるめのお茶を私に出してくれた。  「では、いただきます。」  竹で出来たスプーンで一口だけ口の中に入れると、私は思わず手にもっていたスプーンを落としてしまった。  「あら?大丈夫ですか?はい、替えのスプーンです。」    「店主、このお汁粉はどちらで?」  「え?私のお手製ですが…」  「そうですか、いや失礼しました。」  私は彼女から受け取ったスプーンを受け取ると、再度口に入れると、同じように体が動かなくなってしまった。  そう、この味は忘れるはずがない、忘れてはいけない私の想い出なのだから。  滲み出るような涙を堪えながら、今度は小豆でコーティングされた白玉を頂くと、噛むたびにあの二月の光景が鮮明に思い出される。    「ちょっと、お客様大丈夫ですか?」       
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