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隣席の女性に声をかける。と、真剣な顔でノートパソコンのディスプレイを凝視していた高松が、スイッチが切り替わったみたいに、彩人に笑顔を向けてきた。
「あ、ありがとう。会議室に持って行ってくれる?」
「はい、わかりました」
返事をしながら彩人は席を立った。とたん、縦横にずらっと並んだ机と人の顔が視界に入った。彩人が今いる三階のだだっ広いフロアには、パーテーションなどの仕切りも、死角になる場所もない。
向かい側には、彩人と同年代の女性、上野が座っている。髪を栗色に染めていて、長めの前髪を自社製品のピンで留めている。けっこう可愛い子だ。顔は卵型で、モディリアーニのおさげ髪の少女に似ている。
上野の背後にある島は、ターゲットが十代から二十代のファッションカタログ『LUCY』グループ。更に向こうにある島は、右半分が新企画プロジェクト『紙もの。』、左半分は五年刊行が続いている生活雑貨『ihana!』のグループだ。そこに二階堂の席がある。今は不在のようだが。 彩人は近くにある出入口のドアから廊下に出た。数歩先にあるエレベーターホールに行き、上ボタンを押す。ドアの脇に立って待っていると、すぐに下の階からエレベーターがやってきた。ドアが開いたと同時に、箱の中にいた男――二階堂が声をかけてきた。
「サンプルの絵、新しいの描けたか?」
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