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 入社してからすでに二回、サンプル画を出していた。どれもボツにされたが。自分の絵が、二階堂の見込みとは違っていたのかもしれない。 「ターゲットは十代から三十代の女性だって言ってるだろ。それを念頭に入れて描けよ」 「そのつもりで描いてるんですけどね」  話しているうちにウンザリしてくる。彼を納得させるような絵なんて一生描けないような気がしてくる。 「いつ、社員にしてくれるんですか」  給料だって良くない。時給八百九十円。あり得ない。事務職で千円を切るなんて。『ひまわり』のホール係は時給千円だったのに。 「正社員になりたいなら、一つぐらい企画を通してみろよ」  腕組みをした二階堂が、冷えた目で彩人を見下ろしてくる。彼の背の高さにも腹が立ってきた。  どうせ無理だろうけど、と余計なことまで呟いて、二階堂が彩人に背を向けた。エレベーターホールに向かって歩いていく。  ――約束破っておいて何だよその態度。  スカウトされた日に、彩人はこの耳でしっかりと聞いたのだ。「正社員として雇用するように人事に伝えておく」と。  彼のゴリ押しで入社は果たせたものの(履歴書を提出しただけで採用された)、新卒以外はキャリア採用しかしない、という社の方針で、彩人はバイトの立場に甘んじることとなった。     
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