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十七時のチャイムが鳴ったと同時に、彩人はパソコンをシャットダウンし、机の周りを片付けた。デイバッグを持って立ち上がり、お先に失礼します、と高松と上野に声をかける。と、彼女らは資料読みをしながら「お疲れ様」と棒読みっぽい声で返事をしてくる。見るからに忙しそうだ。
先に帰りづらいが、「なにか手伝えることはありませんか」と聞くこともできない。
アルバイトと派遣の残業は原則禁止されているからだ。
『サニーデイ』と『LUCY』の島は、繁忙期だ。電話はしょっちゅう鳴っているし、息抜きのお喋りをする人間もいない。夏のカタログ発行に向けて稼働中なのだ。
一方『紙もの。』グループは多少余裕があるようだ。さっきから騒がしい。
「二階堂さん、今日飲みに行きません? 明日休みだし」
この二週間でだいぶ聞きなれた、キャピキャピした高い声が響いてくる。
彩人はつい、『紙もの。』と『ihana!』の島に視線を向けた。
横に十席机が並んでいるが、ちょうど真ん中に二階堂が座っている。その両サイドにいる女性が、彼の方に顔を向けている。右隣が田中萌(もえ)。女子力が高い可愛い系の二十四歳。左隣が辻井――二十代後半の美人だ。
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