1324人が本棚に入れています
本棚に追加
彩人が嬉々として特大キャンバス(素材はモルタルだが)に水性アクリルで描いた作品だ。タイトルはない。あえて名前を付けるとしたら「人生」だろうか。
向かって右側に赤ん坊、中央に青年、左側には老女、背景には山もあればビルもある。
「そうですけど」
少し間をおいて彩人は答えた。
すると、男がジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出した。
「私はこういう者です」
両手で名刺を手渡される。
彩人は横向きに印字された文字を、上から順にじっくりと見た。
『株式会社 フェリテ』
有名な通販会社だ。日頃ネットで買い物をしない彩人でも知っている企業だ。
名刺の真ん中には、『プランナー 二階堂 彰人』、下部に会社の住所と電話番号が載っている。
「あの壁画を見て、『我々はどこから来たのか』を思い出したよ」
男はそう言いながら立ち上がり、向かい側の椅子に置いた鞄を持ち上げた。中から雑誌を一冊取り出す。表紙を見て、彩人は合点がいった。
『東京のおしゃれなカフェ』
隔週で発行されている街情報誌の特別版だ。その季刊ムックに、カフェひまわりが店内の写真付きで紹介されていることを、彩人も知っていた。
「壁の絵は、『我々は』のオマージュ?」
雑誌のページをコーヒーひまわりでとめて、男が聞いてくる。
「オマージュのつもりじゃなかったんですけど、似ちゃいました」
最初のコメントを投稿しよう!