プロローグ

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 彩人が嬉々として特大キャンバス(素材はモルタルだが)に水性アクリルで描いた作品だ。タイトルはない。あえて名前を付けるとしたら「人生」だろうか。  向かって右側に赤ん坊、中央に青年、左側には老女、背景には山もあればビルもある。 「そうですけど」  少し間をおいて彩人は答えた。 すると、男がジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出した。 「私はこういう者です」  両手で名刺を手渡される。  彩人は横向きに印字された文字を、上から順にじっくりと見た。 『株式会社 フェリテ』  有名な通販会社だ。日頃ネットで買い物をしない彩人でも知っている企業だ。  名刺の真ん中には、『プランナー 二階堂 彰人』、下部に会社の住所と電話番号が載っている。 「あの壁画を見て、『我々はどこから来たのか』を思い出したよ」  男はそう言いながら立ち上がり、向かい側の椅子に置いた鞄を持ち上げた。中から雑誌を一冊取り出す。表紙を見て、彩人は合点がいった。 『東京のおしゃれなカフェ』  隔週で発行されている街情報誌の特別版だ。その季刊ムックに、カフェひまわりが店内の写真付きで紹介されていることを、彩人も知っていた。 「壁の絵は、『我々は』のオマージュ?」  雑誌のページをコーヒーひまわりでとめて、男が聞いてくる。 「オマージュのつもりじゃなかったんですけど、似ちゃいました」     
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