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変化
週明けから、少しだけ二階堂の態度が柔らかくなった。彩人が出社したとき、声をかけてくれた。「ちゃんと体を休めてきたか。無理はするなよ」と。
彩人はあえて調子に乗った。
昼休憩に出ようとデスクを立った二階堂を捕まえて、プレゼンの極意を教えてくれ、と頼んだ。
「そんなの『サニーデイ』の誰かに聞けよ」
二階堂のつれない返事にも彩人はへこたれなかった。
「二階堂さんが社内で一番、プレゼンがうまいって専らの噂ですよ」
「――まあ、俺が一番企画通してるけどな」
「だから教えてください。絶対俺、『ハシビロくん』を『紙もの。』に載せたいんです」
彩人は力強く訴えた。
二階堂だったら協力してくれる、と信じていた。だって昨日の夕食時、スケッチブックに描いた『ハシビロくん』を見せたら、彼は「悪くない」と言ってくれた。ダメだったら一刀両断する彼が。
「昼休み、少しだけ時間をいただけませんか」
困った顔をしている二階堂に、畳みかけるように言い募る。
「昼休みは食事する時間だろ」
冷たい返事に、彩人は自分の考えが甘かったことを知る。
「分かりました。しつこくすみません」
彩人はため息を吐いて、自席に戻ろうとした。が、呼び止められ、顔を上げる。
「二時から三時まで、どこか空いてる会議室、予約しておけよ」
「え、あ――ありがとうございます」
恥ずかしくなるほど嬉しい声が出てしまう。
二階堂が少し困った顔をして付け加えた。
「金ないんだろ? 昼飯奢ってやるよ」
どうしたというのか。この彼の変わりようは。
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