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彩人は素直に認めた。
ゴーギャンは彩人の好きな画家だった。彼の絵から影響を受けていることは否定できない。
「評判良いみたいだね」
『壁画のあるカフェ』という紹介文の見出しを、男が指でなぞった。
「おかげ様で」
たしかに評判は良かった。雑誌で紹介される前から、壁画の写真を撮っていく客が後を絶たなかった。
「でも、私が注目したのはコースターのイラストです」
記事の隅に載っている写真を、男が指で叩いた。アイスコーヒーと、それの下敷きにされたコースターが一枚。彩人の落書き付きコースターだ。
「実物を見て、よけい気に入りました。あなたのイラストを、わが社で商品化させて欲しいのです」
男がとびっきりの営業スマイルを彩人に向けてくる。断られるなんて微塵も考えていないような、余裕の笑みだ。
「嫌です」
「え?」
「俺は趣味で絵を描いているだけです。仕事にするつもりは全然ないので」
彩人ははっきりと断った。
「そんな――勿体ない。きみには絵の才能がある。こんなところでくすぶっている場合じゃない」
男の顔と声から余裕が消えた。真面目モードに切り替わっている。
――また「才能」か。
彩人はうんざりしながら口を開いた。
「才能が」
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