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事後
事が終わって、二階堂の口から出た科白は、「気が済んだか」だった。
息を弾ませて絶頂の余韻に浸っている彩人を尻目に、二階堂はいつものクールな顔になって、使用したゴムをティッシュに丸めた。
「ゴミ箱は」
「あーどっかにあります」
「ゴミ箱の場所ぐらい決めておけよ」
呆れたようにため息を吐いて、二階堂がワイシャツ一枚の恰好で、キッチンに歩いていく。
「お粥を作ったら帰る」
「マジですか」
お粥を作っている場合ではないと思うのだが。
自分たちはセックスしてしまったのだ。好き同士でもないのに。
「なんか……すみませんでした。俺、無理やり」
「今更謝るな。勃ったから約束通り一回した。それだけだ」
二階堂が淡々と言って、キッチンの収納をガサガサと漁った。
「米がないぞ」
「え、ああ、ないです」
二週間前に米は使い切っていた。だから連休中、買いだめしていた食パンしか食べなかったわけで。あったとしても、米を炊くことはしなかっただろうけど。面倒だから。
「お前……米ぐらいストックしておけよ」
盛大な溜息をついて、二階堂は頭をガシガシ掻いた。彼にしては珍しい。品のない仕草。
「コンビニでレトルトの粥、買ってくる」
キッチンに落ちている下着とパンツを手早く身に着け、二階堂が財布を持って玄関に向かう。
「そこまでしてくれなくても良いです。それぐらい自分でできますから」
「信用できねえんだよ、お前は!」
二階堂に一括され、彩人は黙った。
けっきょく二階堂は、彩人がお粥を完食するのを見届けてから、アパートを出て行った。
――あの人、俺のオカンか何かか?
日中、たっぷり床の上で寝てしまったせいか、夜になっても目がさえている。
彩人はスケッチブックを広げ、二階堂とセックスしたシーンを思い浮かべながら、細かく描写していった。とくに二階堂の体を描くことに熱が入ってしまい、描き終えたのは朝の四時だった。
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