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一度そこで言葉を切る。――才能。笑える。
「才能が枯渇したら終わりじゃないですか。絵を本業にするってリスクが高すぎるんですよ」
自分の父親の事例もある。絵が描けなくなって仕事を失った父を、彩人は何年も目の当たりにしてきた。今頃彼はどうしているのか。どこかで野垂れ死んだのか、新しいパトロンを見つけて細々と絵を描いているのか。どちらでも良い。興味もない。
「――カフェの店員だってリスクがあるんじゃないのか? 店がつぶれたら終わりだろ?」
男が鋭い指摘をしてくる。たしかにその通りだ。今のバイトは誰にでもできる仕事だ。
「じゃあ、俺を雇ってください。普通の正社員としてあなたの会社で。テレオペとかでも良いので」
彩人は正社員の職に就きたかった。今の状況にも全然満足していない。
自分はこれまで手堅い選択をしてきたのだ。美大に行けと親や教師に勧められたが、彩人は普通の大学に入った。二流の私大、経済学部。文系で一番潰しが利くと思ったからだ。
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