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 プルルルル、と外線の電話が鳴った。  彩人はワンコールで受話器を取った。 「フェリテでございます」  すらすらと社名が口から流れ出る。  余所行きの自分の声にいちいち照れることもなくなった。五十回以上、外線に出ていれば当たり前か。 「田畑ですけど……室生(むろお)さんいらっしゃいますか?」  電話の声はちょっと不機嫌そうだ。一週間前はもっと明るい声だったのに。 「少々おまちください」  彩人は保留ボタンを押してから、同じ島の離れた席にいる女性に向かって声をかけた。 「室生さん、一番に田畑さんからお電話です」  はーい、と明るい声が返ってくる。受話器を置いて、彩人はノートパソコンのマウスを左右に揺すった。すぐに黒いディスプレイが明るくなり、使っている基幹システムの画面が映し出される。USBケーブルでつないだテンキーを使って、手元にある指示書の通りに数字を入力していく。スピードはそこそこ速くなった。  彩人がここ、大手通信販売会社『フェリテ』にアルバイトとして雇われてから二週間が経とうとしている。     
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