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※女性との絡みがあります。  微睡の中、背中に柔らかい感触の温もりを感じた。鬱陶しくて、彩人は寝返りを打つ。まだ眠かった。他人の体温から逃れ、ほっとしたのも束の間――耳障りな甲高いベルの音がいきなり鳴り響く。  彩人は反射的に上体を起こして、枕元にあったスマホを手に取った。七時に設定していたアラームを解除したとたん、静けさが戻ってくる。  狭いベッドから下りて、彩人は昨日脱いだ服を、手早く身に着けた。そのあとデイバッグからA3のスケッチブックと鉛筆を一本、消しゴムを取り出す。鉛筆は、一本二百円のファーバーカステル、硬度はB。値段は高いが、描きやすいから気に入っている。 「香苗、起きろよ。モデルやって」  彼女はベッドの中で、花柄の毛布をかぶってモゾモゾしている。起きてはいるようだ。 「今回はクールベっぽいの描きたいんだけど」 「クールベって?」  香苗が体を起こした。恥ずかしげもなく、毛布を取り払い、ベッド脇にいる彩人に全裸を見せつけてくる。筋肉のない女性らしい丸みがある。中肉中背だが、腹部には弛みがあり、太腿と胸には肉割れの跡。そういう完璧じゃない体がリアルで、彩人は気に入っている。 「ギュスターヴ・クールベ。『世界の起源』っていう、股を開いた女の絵が有名なんだけど」 「知らない。私のコレが描きたいわけ?」     
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