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 JRの原宿駅で下車し、竹下通りのアーチをくぐりぬける。休日の日中は立ち止まったら後ろが渋滞するぐらい人が溢れている通りだが、今は店がオープン前の午前八時過ぎ。空いている。十メートルほど歩いて、彩人はクレープ屋の看板の手前にある脇道に逸れた。とたん雑音が消え、店もまばらになる。裏道を選んで、地下鉄表参道方面に向かう。一軒家が立ち並ぶ、細くて狭い道を五分ほど歩くと、目当ての店『OKINI』 ――コンクリート打ちっぱなしの建物が見えてきた。自然と彩人の歩調は速くなる。 「月島!」  店のドアの前で突っ立っていた男が、彩人の姿に気がついて、手を振ってくる。空いたもう片方の手にはハタキが握られている。  後藤の目が、懐かしむみたいに細められる。 「後藤」  久しぶり、と彩人は手を振り返した。本当に久々に顔を合わせた。六年ぶりぐらいだ。  後藤とは中学、高校が同じで、クラスが同じときは仲が良かった。社会人になった今でも、たまにメールやLINEで連絡を取り合っている。     
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