自己嫌悪

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自己嫌悪

 三回セックスをした後は疲労困憊で、彩人はシャワーを浴びてすぐに後藤のベッド転がり込んで、朝まで起きなかった。  翌朝、後藤に車でフェリテまで送ってもらい、始業時刻の二十分前に会社の駐車場に到着した。 「悪かったな。三回もヤッちゃって」 「ほんとだよ。腰がギシギシするし、歩くのしんどいんだけど」  助手席に座ったまま、彩人は顔をしかめて後藤に文句を言った。  昨晩、二回目が終わって「もう嫌だ」と彩人は音を上げたのに、後藤はそれを無視して後ろから挿入し、ガンガン腰を振ったのだ。 「ほんと悪かった。反省してる。『愛人』っていうとさ、金とセックスが大好きってイメージがあったんだよ。悪かったな」  後藤は彩人のことを誤解していたのだ。愛人をするほど、男とセックスするのが大好きな奴だと。  大学時代、学費を稼ぐために愛人をしていたのだと朝食時に説明すると、後藤はバツの悪い顔をした。 「月島って苦学生だったんだな。俺は親に全額払ってもらったからさあ。お前偉いな」 「偉くねえだろ。ふつう学費稼ぐにしても愛人はやらないだろ」  家庭教師でもカフェの店員でも、大学生ができるバイトはたくさんあった。彩人だって最初は後ろめたくない仕事をして金を稼いでいた。――疲労と栄養失調で倒れ、留年しそうになるまでは。 「――中山はさ、お前のこと悪く言ってなかったよ。むしろ同情している感じだった。お前と会いたいとも言ってた。月島が嫌じゃなければって」 「そっか」  でも彩人は、中山に会いたいとは思えなかった。あんな醜態を見せてしまっては――どんなに月日が経っても合わせる顔がない。  周りの駐車スペースに、ぽつぽつと車が埋まっていく。そろそろ会社に出社しなくてはいけない時間だ。  彩人がドアのロックを外そうとすると、後藤が「待てよ」と声を出した。 「忘れてる。昨日のタトゥーの代金」  一万円札を無理やり握らされた。それは五枚あった。 「多すぎだろ」 「経費と、あとはまあ色々」 「でも――」 「悪かったと思ってるんだって。良い思いさせてもらったし、俺は金持ちだし」  悪気のなさそうな顔で言われ、彩人は手の中の札をじっと見た。  五万円。あるのとないのとでは、全然違ってくる。生活が楽になる。 「――じゃあ貰っとく。送ってくれてありがとな」  彩人は後藤の顔を見ずに車から出た。  会社のビルに入ってすぐ、財布に貰ったばかりの一万円札を差し込んだ。  もう返せないと思った。自分が更に汚れた気がした。今更だけれども。
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