すごくいい電車

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ガタンゴトン… 長く電車が走っていると、時々女性の悲鳴が聞こえる。 たぶん痴漢が出たのだ。助けに行きたいけど、乗客で溢れかえった車内では身動きが取れない。 誰かがその人を助けてくれていたらいいと願う。周りを見渡すと、同じ願いを持った人たちばかりだ。 同じ願いを共有することで、再び車内は幸福感に包まれた。 その時、電車はガタンッと大きく揺れ、僕たちの幸福感は弾け飛んでしまって、僕には絶望感だけが残った。 僕はもう助けに行けないのだ。 何事も起きていないかのように電車は走り続ける。 ガタンゴトン… 電車は揺れながら、走り続けている。揺れているのだから、走っているはずだ。 今どこへ走っているのか確認したくても、先頭車両に行くことができない。 今どこを走っているのか確認したくても、周りは人だらけで外の風景なんて見ることができない。 ガタンゴトン… 時々女性の声が聞こえる。僕には何も感じない。 電車はただ走り続けている。 ガタンゴトン… 時々電車は駅に停車する。僕たちはつぶやく。 「この電車は、どの電車よりもすごくいい。そうに違いない。」 ガタンゴトン… 満員電車が走り続ける。僕たちは、もうずっと長い間立ちっぱなしだ。動きたくても動けない。 足がしびれてきた。体もしびれてきた。心も、しびれてきた。 電車が揺れる。僕たちの体も揺れる。揺れた拍子に、誰かの手が僕の顔を打つ。僕の手が誰かの顔を打つ。僕の顔にあざができて、誰かの顔にもあざができる。みんな、あざだらけだ。 動けない僕たち。見えない風景。 ガタンゴトン… ガタンゴトン… 電車は今、どこを走っているのだろう。 電車は今、どこへ走っているのだろう。
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