0人が本棚に入れています
本棚に追加
ガタンゴトン…
長く電車が走っていると、時々女性の悲鳴が聞こえる。
たぶん痴漢が出たのだ。助けに行きたいけど、乗客で溢れかえった車内では身動きが取れない。
誰かがその人を助けてくれていたらいいと願う。周りを見渡すと、同じ願いを持った人たちばかりだ。
同じ願いを共有することで、再び車内は幸福感に包まれた。
その時、電車はガタンッと大きく揺れ、僕たちの幸福感は弾け飛んでしまって、僕には絶望感だけが残った。
僕はもう助けに行けないのだ。
何事も起きていないかのように電車は走り続ける。
ガタンゴトン…
電車は揺れながら、走り続けている。揺れているのだから、走っているはずだ。
今どこへ走っているのか確認したくても、先頭車両に行くことができない。
今どこを走っているのか確認したくても、周りは人だらけで外の風景なんて見ることができない。
ガタンゴトン…
時々女性の声が聞こえる。僕には何も感じない。
電車はただ走り続けている。
ガタンゴトン…
時々電車は駅に停車する。僕たちはつぶやく。
「この電車は、どの電車よりもすごくいい。そうに違いない。」
ガタンゴトン…
満員電車が走り続ける。僕たちは、もうずっと長い間立ちっぱなしだ。動きたくても動けない。
足がしびれてきた。体もしびれてきた。心も、しびれてきた。
電車が揺れる。僕たちの体も揺れる。揺れた拍子に、誰かの手が僕の顔を打つ。僕の手が誰かの顔を打つ。僕の顔にあざができて、誰かの顔にもあざができる。みんな、あざだらけだ。
動けない僕たち。見えない風景。
ガタンゴトン…
ガタンゴトン…
電車は今、どこを走っているのだろう。
電車は今、どこへ走っているのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!