第一話【 洗礼の前に】

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「キャスー! キャスティール! どこにいるの?」  僕は自分の名前を呼ばれ、甘いまどろみから目覚めた。  僕は目深にかぶった麦わら帽子を手に取り、呼び主に向かってゆらゆらと振ってみせた。  空から降り注ぐ柔らかい日差し、背中から伝わる暖かくゆるやかな揺れが、また僕を眠りへと誘おうとする。 「キャスってば、よくそんなところで寝られるわね」 「慣れてみるとすこぶるいい寝心地なんだよ、カナリー」  そう言うと僕は大きな乳用牛の背中から体を起こす。しかし、同時に乳用牛が歩き出したため、見事に大地に全身を叩きつけられる。 「ふふっ、仕事をさぼっているバチが当たったのね」  姉のカナリーが僕の身体中についた牧草を両手で払ってくれる。 「ありがとう、姉さん、自分で出来るから大丈夫」  カナリーは僕たちの両親が神に召されてからというものの、やたらと僕の世話を焼こうとする。僕はもう今日で十二歳になるのに、友だちに見つかったら何を言われるかわからない。
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