2:落とし穴のその先に

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 何もかも違う世界。日本での常識など全く通用しない異世界の暮らしはとても不安で、とても恐ろしいものだったのだ。  異世界にやってきてすぐにアーロンに保護され、恵まれているとはいえ右も左もわからなかったのだ。  容姿も違う言葉も違う、常識も食べ物も、なにもかもが違う中で、本当に自分は日本人なのだろうかと、日本で暮らしていたことは、得意の空想癖で見た夢の話なのではないだろうかとか、自身の存在すらあやふやでわからなくなって、毎夜布団を頭から被って記憶を振り返り、確かめていたほどだった。  そんな自分が少しずつ現実を受け入れ、前を向いて歩けるようになったのはアーロンと、子供たちのおかげだろう。  自分で身を守れる。この世界でも自分にやれることがある。自分はこの世界に必要とされている。そう感じることができたのがとても大きかった。必死だった。  そんな、俺を助けてくれた子供たちのうち二人は、来月にここを卒業する。成人するのだ。  彼らは成人後、ここより大きな隣町へ移住することが決まっていた。俺のおかげで良い就職先が見つかったのだという。スラスラと文字の読み書きができ、計算もできる平民はそういない。重宝されることだろう。  日本にいたころはサラリーマンにでもなるのかなと思っていた。うまくいけば結婚できるかなと思っていた程度。  まさか異世界で先生になるとは思わなかった。  生活を保護されて好きにやらせてもらえて、やりがいのある仕事で稼ぐことができて、俺は大変恵まれていた。
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