2:落とし穴のその先に

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 今日は朝からアーロンが俺にべったりとくっ付いていた。昨夜から続くひどい雨で、仕事にならないのだという。  農具の手入れも終えて普段なかなかできない家仕事も終え、暇をしていた。  背中にべったりとくっ付かれたまま、俺はせっせと筆を走らせていた。書くのは懐かしい漢字と平仮名。二日前に届いた手紙の返信だ。  手紙の差出人はミツキという。この世界で初めて会った日本人であり、俺がこちらの世界に来るきっかけになった、あの落とし穴にハマっていた男子高校生だ。  先々月、隣町の市場に出店した際、買い物客としてやってきた。その際、今晩はオムライスにしたいんだけどと独り言を呟いてくれたおかげで、彼に再会することができたのだ。  懐かしいその単語はこちらには存在しないメニューで、よく見れば帽子にポンチョで人間の耳を隠し、尻尾がない尻を隠すという俺と同じファッションだったため、俺以外にも日本人がいるのだと感動した。結果、あの時の奴だと分かり、無事で本当によかったと男泣きしてしまった。ミツキには何度も謝られたが、彼には感謝こそすれど恨みなんてない。  ミツキは現在、狼族の男と暮らしている。彼も俺と同様、運命の香りの相手と出会い、番っている。互いが現在幸せなんだったら、それで十分だ。  背中の熱を感じながら筆を進めた。 「ミツキはなんて書いてきたんだ?」  背中越しに覗かれてドキリとするも、アーロンには日本語は読めない。安心しつつ後ろへと顔を向けた。  相変わらず頭部の白い耳に目が行ってしまう。いかつい顔に似合わない、可愛らしい兎耳だ。 「二人目、妊娠したんだって。上の子がやきもち焼いて大変みたいだよ。毎日が戦いだってさ」 「戦いだって? 育児がか?」 「やんちゃすぎて大変らしいよ。俺たち日本人はこっちの人と違って体が小さいし、あんたらと違って体力がない」 「ああ、なるほどな。それにミツキんところは狼か。そりゃあ大変だろうなぁ。あっちのほうも」 「あっちって、あ、こら、やめろっ」  スリ……と、首元に擦り寄られ、ぞわりと腰が戦慄く。ぽわんと兎耳が触れるのに我に返った。運命の香りが濃厚だ。 「待て、今日はしないからな!」 「昨日してねえだろ」 「二日前にしたとこだ! そんな頻繁にしたら壊れるわ!」 「壊れねえって」
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