68人が本棚に入れています
本棚に追加
ぐわりと体重を掛けられ、慌てて筆を遠くへと避難させた。こうなったら何を言っても聞いてもらえないだろう。
諦めて身を任せた。明日は俺たちにとって記念日だ。そんな日に寝て過ごしたくないのが本音だが。
「わ、わかったから今日は激しくするなよ!?」
一応、訴えておく。返事なのか、フスフスと鼻を鳴らす音が胸元から聞こえた。
月明かりが差し込む室内、俺は隣に眠る男の盛り上がった胸筋を見つめていた。抱き込まれていて、どんなに目を動かしても胸筋しか視界に入らないせいだ。腕の中から抜け出すことは不可能だった。
彼も今日が特別な日であるとわかっているからいつもよりはソフトであったが、日本人の俺にとってはハードだった。おかげで立ち上がれない。腰が痛い。仕方ないと諦めて大きくため息を溢す。
アーロンの種族は性欲旺盛だ。それこそ毎日、いや、朝昼晩と三回、いや、下手したらそれ以上にでもヤりたがる。運命の香りで結ばれた番であるからなおさらだ。丁重にお断りして、数回に一回は渋々と受け入れてくれるが、そのたびに俺でよかったのかと不安になる。人間でなく、他の種族であれば……。
不安になるが、彼から香るチョコの匂いが宥めてくれた。
ゆっくりと上下する胸筋に頬を預けて、再び目を閉じる。
日付が変わってしまった。今日でこの男と出会って三年になった。早いものだ。
ミツキを助けようとして一緒に異世界に飛ばされて、畑に落ちた俺は、運命の香りに導かれたアーロンに保護された。
保護されて家に連れてこられ、そこで初めて、俺が異世界人であることをアーロンは知ったわけだが、彼にはそんなこと些事だったらしい。運命の番だったからだ。
最初のコメントを投稿しよう!