2:落とし穴のその先に

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 手を取られ口づけを落とされて、お前も感じるだろうと言われた。甘いチョコの香りをと。この絆を前に、そんなことはどうでもいいのだと言われた。  はっきり言って、運命の香りだのなんだの言われても、異世界に来てしまった混乱中に受け入れられるわけがない。  なにより、俺は男で相手も男。相手なんかガタイのいい、むさ苦しい男だ。しかも出会っていきなり「お前は俺の運命の相手だから、これからじゃんじゃん交尾して子を産んでくれ」と言われたら、喜ぶ奴などいない。怖くて逃げ出すに決まっている。  実際怖くなって、保護された翌日に逃げ出している。  運命の香りによって結ばれていると言われても、会ったばかりの奴だ。獣人なんて得体が知れなくて恐ろしかった。  アーロンの元を逃げ出した俺には、もちろん行くあてなどなかった。  右も左もわからない世界。しばらく歩き、森に迷い込んだ。  手の入っているものではなく、まったくの手つかずの自然で、道なんてなかった。草木を描き分けて進んだ。  ふらふらと歩いて、いつの間にか捕まっていた。罠が仕掛けられていたのだ、落とし穴という単純な罠が。  上から覗き込む、ニヤニヤと脂ぎった顔がいくつか。  後で知ったのだが、こいつらは奴隷商のやつらだったらしい。この世界では、子供を捕まえて奴隷として売る悪党がいる。子供と間違えられた俺は売られてしまうところだった。  そう、間一髪で俺は助けられた。追いかけてきたアーロンに。悪党をバタバタなぎ倒し、あっという間だった。  傷だらけになった逞しい腕に抱えられながら、怒られた。  この世界は優しい世界ではないこと、知識がないくせに飛び出すなということ、命を簡単に捨てようとするなということ。  知らなかっただけで命を簡単に捨てようと思ったわけではないが、助けられた俺は大泣きした。もちろん安堵からだった。
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