2:落とし穴のその先に

10/18
前へ
/22ページ
次へ
 彼の優しさ、懐の広さに驚いた。  街の外は未だ荒れていて、凶暴な化け物や盗賊がうろついている状況。そんな中、一人で生きていくのは無理だとこの時悟ったのだった。  頭上から寝言が聞こえる。彼は俺をいつも包み込むように抱きしめながら寝るのだが、推測するに、出会ってすぐに逃げ出したことが大変なショックなことで、トラウマになっているようだ。混乱していたとはいえ、悪いことをした。  規則正しく穏やかな寝息を聞きながら、頬に感じる熱にうっとりと息を吐いた。俺もこの時の出来事から、こいつと離れるのが怖くなった。  余談だが、助けられたあと、怒りとショックで理性が切れたアーロンにペロリと美味しく頂かれている。  恐怖による緊張で汗を多くかいていた上に大泣きしたせいで、香りが増幅していたらしい。本能が抑えきれなかったそうだ。やはりフェロモンの一種なのだろう。しばらくケツが痛かったが、思ったより悪くなかった。驚きだった。  ただ、とんでもなく恥ずかしかった。それは今でもだが。 「椋人?」  掠れた低い声が大変セクシーだ。男にそう感じるなんて、自分も大概こいつのことが好きなのだ。 「なんだ、お前も起きたのか?」  包み込まれた腕の中でなんとか伸びあがり、瞼が半開きのアーロンにキスをした。ふわりと香るチョコの甘い香りにクラクラする。 「すまねえ。日付が変わっちまったな」  ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて、ぐえっと声を漏らせばすぐに離してくれた。 「早えなあ。もう三年か。まだまだ足りてねえわ」 「お前はいくらヤっても足りないだろ」 「そりゃそうだ。相手が椋人だから仕方ない」  ぐわりと開いた口が俺の口を塞ぐ。兎といえばあっちの世界では草食動物だったけど、こいつは全然違う。物理的にも食べられそうだ、こわい。 「それだけじゃねえよ。もう俺はお前がいなきゃ無理だからな」 「安心しろ。それは俺もだ、アーロン」 「はは、そうかそうか」  静かに笑い、優しく髪を梳いてくれる。心地よくてゆっくりと目を閉じた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加