2:落とし穴のその先に

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 大笑いするアーロンを風呂場に押し込んだ。よく一緒に入りたがるが、入ったが最後なのはよくよくわかっている。  笑うなと叫びながら台所へと戻り、鍋に蓋をして火を調節した。煮込みが終わるまで椅子に座って安静だ。腰はまだ怠く、長く立っていられない。  腰をさすりながら引き出しからメモ帳を取り出して開いた。  取り出したメモ帳はヨレヨレだ。元々そんなに質の良いものではないし、三年も使っているから仕方ない。しかし俺は大事に大事に使っている。  これには、この世界に来てからのことを書きとめている。万が一、日本に戻ることになってしまった時のため小説風にしてある、いわば日記だ。  ミツキから聞いた話では俺とは逆に、こちらから日本へ飛ばされることもあるらしい。ミツキの知人が以前日本に飛ばされたことがあるそうだ。  自分の意思とは関係なく戻されることもあるかもしれない。  ミツキからその話を聞いたとき、そう怖くなったのだ。  異世界を渡る道は常に通じているらしく、いつでも行ったり来たりできるらしいのだが、そんな不安定なもん、俺には信用できない。いつ勝手に塞がってしまうか、考えるだけで怖い。  あいつと離れることがどれだけ怖いことか。  自分にとって、あいつとはどういう存在なのか。  改めて考えて、離れることは無理だと強く思った。  俺はアーロンと離れるつもりはない。香りで結ばれた番だから誰よりも絆は強いはずだ。きっと一生離れないことだろう。  しかし、自分の意思ではどうにもできないことがあるかもしれない。  勝手に離される不安に怯えながら、万が一のとき、自分はどうするのだろうかと考えた。その時に浮かんだのが、このメモ帳の存在だ。  万が一離れてしまった時、これがあれば、なにか縋るものがあれば。  きっとやっていける、なんとか生きていけるかもしれない。  自死だけはしたくないのだ、アーロンのためにも。  ミツキの話を聞いてからは、そう思いながら大切に一文字一文字、筆を走らせている。
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