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なにか不満があったわけではない。未練がないわけでもない。家族や友人らに会いに、元の道を戻りたいとも思う。
別れを告げていないのだ。あまりにも突然のことだったから。
それでも。
傭兵は目を輝かせながらこちらへと手を差し出している。
自信に満ち溢れた、力強い目だ。
自分もそうありたい。願わくば、この男と共に。
騎士は彼の手を取った。
もう後ろは振り向かない。時おり、思い出すくらいでいい。
覚悟を決めてグッと一歩踏み出せば、驚くほど体が軽くなった。
サァ……と、爽やかな風が騎士と傭兵の間を通り抜けていく。砂漠の埃っぽさを吹き飛ばし、甘いチョコの香りが二人の間を漂った。
視界が一転して、鮮やかなものに変わる。
「さぁ行こう。椋人」
目指すは砂漠の向こう。光輝く緑の未来。
了
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