弟殿下の頼みごと

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 にしても……約三日間の高熱と関節痛を乗り越えてしまえば健康なときとさほど変わらなくなってしまうのも、この病気の特徴だ。たしかに体力は削られた。しかし腹は減る。ぐうぅっと体の真ん中から唸り声が聞こえる。 ――お腹すいた。なんか食べたい。    こたつの天板に突っ伏していた顔を上げ、壁掛け時計を見る。  AM11:28。  ――そろそろか。 「たっだいまー! 康司(こうじ)、いい子にしてたか!」  威勢のいい声とともに、金色の長髪をくるくるにした外国人風の男性が部屋に入ってきた。黒のAコートを脱げば、エメラルドグリーンの宮廷衣裳が目に鮮やかに飛び込んでくる。彼はブルーの瞳で俺を見つめつつ、ニコニコと妖艶にほほえんでいる。一見するとビジュアルバンドでもやっている人っぽいこの人が正真正銘、俺のアニキである日下(くさか)健司(けんじ)である。  ここ三日間。11時半になるとアニキは俺のために仕事を抜け出して帰ってくる。病気の俺に昼ご飯を作るためだ。 「作り置きしておいてくれればいいって、俺言ったじゃん」 「なあに言ってんだよ。せっかく元気になってきたのに、冷たいもんなんか食わせられるかよ」  見た目どう見てもうさんくさい外国人風な兄、健司。良くも悪くも弟思い。 「俺はあんたの仕事を心配してんのに」 「弟が一番。仕事は二番。それに自由がきくからな、自営業は」  たしかに自営業は自由だと思う。     
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