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「まあな。病気の弟がどうしても出前のらーめんが食いたいって言うんでって喜三郎のオヤジさんに話したらさ、いろいろゆずってくれたんだよ」
「じゃあ、これからも出前のらーめん食えるんだな」
「らーめんと言わず、かつ丼もできるぞ?」
そう言って、アニキはブルーの目を細めて楽しげに笑ってみせた。
「侯爵喫茶で『出前やります』って告知したら? 流行るんじゃない?」
「まあ、それもアリかなあ? カブもゆずってもらったしな」
「そこは馬じゃないのかよっ」
「馬だと申請と飼育費が大変になるじゃないかっ」
「カブじゃ夢がないだろうが! その姿なのに!」
「いや、だって出前はカブっていうのがテッパンでしょうがっ」
今の恰好とは似つかわしくなく、彼は豪快に笑ってみせた。それこそ俺のアニキ、健司その人らしく――
本来、らーめんはアツアツの状態をフウフウ息を吹きかけながら食べるものだと思う。だけど、俺は人生でこんなうまいらーめんを食べたことがない。
麺は伸びている。汁はアツアツじゃない。
だけど、このぬくもりには愛がある。愛しか詰まってない。俺のためにここまでしてくれる人は世界中探したって、きっとこの人しかいないから。
それがわかる、優しい温度だったのだ。
――そのうちカブ乗り回して、おかもち持って現れる侯爵様の姿がテレビに流れるんだろうなあ。
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