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2テラバイトの彼女の人生。
あらゆる音声データが行動履歴が画像ファイルがレンダリングされて、まとめられた彼女のすべて。
27年間の記録。
前半は私が知らない彼女。いつか彼女から聴いた幸福な子供時代。
まだ町で買い物をする習慣が残っていた頃の日曜日の思い出。飼っていたコーギーの元気な鳴き声、両親の優しい眼差し、笑ったコミック、強制削除された誰かとの通話。ノルコインで支払った利用規約の違約金。
後半に現れる私の履歴。
出会ったSNSのスレッド、そのときの二人のサムネイル、共有したGIF、いいねをつけた画像、連なっていったリプライ、はじめて会った日の天候、二人で聴いた音楽、肌を合わせた場所、二人のデバイスが寄り添ったGPSの座標。
彼女の網膜が記録した私の瞳、唇、白い腹部、乳房と陰影。
画像がスライドショーになり、音楽が流れ、使ったボディーソープのトレーサビリティが流れ去り、レンダリングされたデータが長い長いテキストを生成する。
画像や映像、検索履歴やメタヒストリーでは表現しきれない人生の軌跡はいくらテクノロジーが進化しても文章を必要とした。
ひとはとても散文的な生き物で最後にはいつも物語を求める。
ひとの物語を生成するテキストの連なり。
私はひとりで彼女の物語を読んでいる。ずっとひとりで読んでいる。
また日が暮れていく。夜が飛び去っていく。季節が移ろい歳月がこぼれていく。
それでも私はひとりで彼女を読む。
二人で積み重ねた日々、体を重ねた日々、愛の匂いだけが欠落したログ。唐突に打たれた罹病のピリオドと通院の履歴。
進み過ぎた医療にはもうロマンが入り込む余地はなかった。特定疾患のタグづけで、簡単に生を記録したライフグラフは死という未来値を確定させた。
逆算された彼女の寿命。
彼女の網膜に焼き付いた私の涙。
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