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「あなた…」
「美佐子…」
「あぁ…昨日買っておいた良い寒ブリがあるのに…今夜食べられるか分からないのが悔しいわ…」
「…」
聞いているのが悲しかった。いや、ブリの話じゃあない。
「いくぞ!指令ではこの地区全員が上空の宇宙船に向かえという事だ…」
「え…ねえ…聞いてもいい?地球の人間全員が…みんなこうなのか?この…銀色の…?じゃあ下の階の九十六になる豊田さんの爺さんも?」
「そうだ…。それだけじゃない。お前の友達のあのほら、ちょっと胸のデカイ…」
「兄貴…普段俺の友達をそういう目で見てンのかよ…」
「あの子もだ…」
俺はお袋を見て級友・実為良子のその恰好を想像した。
「へえ…」
お袋がまたあのポーズをとって笑った。それは止めて欲しい。
「グズグズ出来んぞ…!」
「さあ母さん!」
「零ちゃん、お腹がすいたらレンチンしてスパゲッティ食べるのよ!三分よ!三分チンするの!いい?」
三分か…。なるほど、凄く納得だ。
そして三人は窓を開け、四階にあるこの部屋から『飛んで』行った。
俺は三分間チンしたスパを持ってリビングに座り、『小島恭平のモーニングワイワイ』を見続けた。何しろ『ゆゆ』も銀色のコスに変身して原稿を読んでいるのだ。バストがテーブルに載っている。その胸にもガラスのような半球が付いている。
「うへへ…」
その時テロップが流れ、それを読んだ俺はスパゲッティを噴き出してしまった。噴いたスパがテレビ画面をゆっくりと伝い落ちて行く。
『文京区の超希少種・今竹零士さんを全員で守りましょう』
「おお…俺って…」
外で閃光が走る。衝撃がマンションを揺らす。その中で俺は黙々とスパゲッティを啜り続けた。
「頑張れヒーローたち!」
そう声援を送りながら。
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