地球イチ安全な男①

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「あなた…」 「美佐子…」 「あぁ…昨日買っておいた良い寒ブリがあるのに…今夜食べられるか分からないのが悔しいわ…」 「…」  聞いているのが悲しかった。いや、ブリの話じゃあない。 「いくぞ!指令ではこの地区全員が上空の宇宙船に向かえという事だ…」 「え…ねえ…聞いてもいい?地球の人間全員が…みんなこうなのか?この…銀色の…?じゃあ下の階の九十六になる豊田さんの爺さんも?」 「そうだ…。それだけじゃない。お前の友達のあのほら、ちょっと胸のデカイ…」 「兄貴…普段俺の友達をそういう目で見てンのかよ…」 「あの子もだ…」  俺はお袋を見て級友・実為良子のその恰好を想像した。 「へえ…」  お袋がまたあのポーズをとって笑った。それは止めて欲しい。 「グズグズ出来んぞ…!」 「さあ母さん!」 「零ちゃん、お腹がすいたらレンチンしてスパゲッティ食べるのよ!三分よ!三分チンするの!いい?」  三分か…。なるほど、凄く納得だ。 そして三人は窓を開け、四階にあるこの部屋から『飛んで』行った。  俺は三分間チンしたスパを持ってリビングに座り、『小島恭平のモーニングワイワイ』を見続けた。何しろ『ゆゆ』も銀色のコスに変身して原稿を読んでいるのだ。バストがテーブルに載っている。その胸にもガラスのような半球が付いている。 「うへへ…」  その時テロップが流れ、それを読んだ俺はスパゲッティを噴き出してしまった。噴いたスパがテレビ画面をゆっくりと伝い落ちて行く。 『文京区の超希少種・今竹零士さんを全員で守りましょう』 「おお…俺って…」 外で閃光が走る。衝撃がマンションを揺らす。その中で俺は黙々とスパゲッティを啜り続けた。 「頑張れヒーローたち!」  そう声援を送りながら。
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