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「…ァ…エレノア様ッ!」
ゆっくりと重たい瞼を開けると、目の前には侍女のサリーの心配そうな顔がある。
サリーの後ろに垣間見えた天井のデコルテは私の部屋の模様だ。
つまりベットで寝ていたみたい。
いつも鉄仮面並みの表情で、あまり表情など変えない彼女でもこんな顔をするのかとつい考えてしまう。
これは、私の知っているサリーなのかな?とゆっくりと唇を動かす。
「…サリー…?」
すると、サリーは小さく息をついて私に言った。
「…気がつかれて良かった…
…エレノア様、貴女様は王太子殿下とお話し中に
お倒れになったのですよ…
覚えていらっしゃいますか?」
「王太子殿下…?」
んん?
どうしたことだろう?
私の中にはエレノアとして過ごした時間や思い出も、サリーの事もあるのにサリーの言っている王太子殿下と話していた直前の記憶がない。
「…ええ、そうです。リチャード様です…
…エレノア様?」
ゆっくりと身体を起こすと、しばらく考えてみるがやはり何も思い出せない。
「…サリー…ごめんなさい、私…その時の事…あまり覚えてないみたい…」
私は少し苦笑いで言う。
私の言葉を聞いたサリーは
水色の綺麗な瞳に驚きをあらわにして、部屋を飛び出して主治医と看護士を連れて戻ってきた。
せっかく身体を起こしたばかりなのに、ベッドに戻され医者の診察が始まったのだ。
私の中には
日本でごく平凡に過ごしたが交通事故に遭ってしまった自分の記憶と
エレノア・カルティエ。
つまりはカルティエ家令嬢でこの世界の
悪役令嬢としてしたい事をしてきた
底意地の悪いお嬢様の記憶がある。
私が生前やっていたゲーム
【アルメニア・ルーン】という男性5人を落とす恋愛ゲームにそのままそっくりな世界なのよね。
サリーは悪役令嬢エレノアの側にいたし、多分そうよね…。
んー…?
ということは、つまり…
私が恋してやまないあの方もこの世界にはいるのかしら?
攻略キャラではないけれど、一度だけでもあの姿を垣間見得たなら…ああ、次こそは天国にいけるわね。
目を閉じて笑うエレノアを医者とナースとサリーが
やはり彼女は倒れた時に頭を打ったのかと心配していたのは言うまでもない。
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