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エレノア「婚約解消の件ですか?」
リチャード「それ以外に用などない。
お前は、あの時倒れてやり過ごしたからな」
エレノアとして生きてきた彼女の思いが胸の中で痛いくらいに溢れてきそうだ。
初めてリチャード皇子と会った日や彼を思う気持ちが真っ直ぐに彼を愛していたのね。
ただ、やり過ぎてしまった。
彼に他の子が声をかけないように裏で手を引いていたり、2人きりの時間ばかり作ろうと彼の気を引こうとしていた。
気がつけば彼の心は離れ、軽蔑の感情を向けられてしまっていた。
エレノア
「サリー、私の棚の引き出しに入っている物を持ってきてくれる?」
サリー
「…、畏まりました」
サリーがエレノアの部屋に入るのを確認してからリチャード様に歩み寄る。
リチャード
「何だ?また言い訳でもするのか?」
エレノア
「申し訳ありませんでした、リチャード様。
私…、私がしたことは決して正しい事ではありませんでした。
貴方の心を傷つけ、振り回し自分が愚かで浅ましい所業を恥じるばかりです。
この度の婚約解消、お受けしゆめゆめ自分の愚かさを忘れぬように致します。」
私は、ゆっくりとリチャード様に頭を下げる。
震える指先を握る。
決して泣くものかととり澄まし。
人を好きになる気持ちが、こんなに痛いものだったなんて初めて知った。
でもね、エレノア。
この気持ちは切り捨てよう?
前に進むために、ごめんなさいは必要なことだから。
リチャード「……何故急に態度を変えた。
お前は…あれ程、嫌がっていただろう!
は…、新しい後ろ盾でも見つけたか…!」
エレノア「…いけませんか?」
リチャード「……何?」
エレノア「私の様な愚か者でも…
悪いと…心から思う事は…いけませんか?」
リチャード「………」
長い沈黙。
リチャード様のお怒りの理由はエレノアの所業であって、きっと私達の仲は修復は難しいだろう。
けれど伝えるべきことは伝えないと、私たちはこの世界で生きていくのだから。
人生を振り返った時、後悔はしたくない。
美しいブルネットの瞳が凛としてこちらを見る。
サリー「…お嬢様」
小さな布袋に入った品をサリーから受け取ると私はリチャード様の前に両手の掌に置いた。
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