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【リチャードサイド】
ユーステス「殿下、いい加減にしないと手に跡残りますよ」
リチャード「…煩い」
帰りの馬車の中、私はエレノアから返された小袋を握りしめていた。
自分と婚約してから輪をかけるようにエレノアの態度は女王様と言わんばかりに振る舞うようになり、挙句リチャードの友人関係にまで口を出す始末だった。
先日の他国からの使者に対して政治にまで下手に関与しようとする。
ユーステス「でも、あのエレノア様が頭を下げるなんてな…なんだか、別人にでもなったようじゃないですか?」
別人?
別人だ、あんなの。
エレノアは誰かに頭を下げるなんてしない女だった。
例えそれが王族であろうと。
常に優位で目立ちたがり屋で欲しいものは手に入れる、高慢な気位があった。
だから形だけの婚約者であり、政治的な駒でしかなかった。
いつでも切り捨てれる。
なのに。
それなのに、あの目は何だ。
婚約解消など自分の品位に傷が付くと怒り嘆いていた女ではない。
あの強くてまっすぐな眼差しはまるで憑き物でも落ちたような。
小袋の中から出てきたのは小さな髪留めだった。
小さな蝶に我が国の原産、スターライトの青く小さな輝きをちりばめた小さな髪留め。
婚約指輪が出来るまでの時間稼ぎの愛想程度の品。
社交界に行けば誰もが彼女の見目に拐かされ、もっと他の男からいいものを貰えたりもしただろう。
リチャード「……なんでこんな粗末な品を…」
ユーステス「これ…ああ、皇子がエレノア様に初めて贈った品じゃないですか。」
リチャード「…何?」
ユーステス「忘れてたんですか?
エレノア様、会うたびそれをつけていらっしゃったでしょう?」
ユーステス「…大事に手入れされてたんですねえ…
それに引き換え皇子は…」
リチャード「……」
宝石など母親から腐る程贈られているだろうに、私の贈り物など気にもしていないと思っていた。
ユーステス「…まあ、でもカルティエ夫妻が御旅行中なのが幸いでしたね。
あちらもあの様子じゃ、然程問題にはしないでしょう。
…お詫びの品は適当に見繕いますか?」
リチャード「いや、私が持っていく。」
愚か者は私の方だったのか。
彼女の事など見てもおらず、理解もせずいたのは私だったのだろうか。
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