プロローグ

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 カタカタと流れる様な音は、松田の神経を落ち着かせた。根っからのゲーム好きな彼は、一日中でもディスプレーの前に座って居られた。仲間と協力して戦場を生き抜くオンラインゲームは、十時間ぶっ続けでも苦にならない。  だから、今の仕事を気に入っていた。仕事内容は、数字や記号の羅列が流れ続ける画面を、ひたすら見続ける事で、素人にはただの文字列にしか見えない画面も、エンジニアが見れば、意味や物語が伝わって来て、バグが有れば発見できた。  それは、ベテラン編集者が文章を校正するのに似ている。  ただ、今日は空気清浄機が故障していて、最悪なコンディションだった。社内に煙草を吸うヤツが居て、ヤニ臭さが注意力を奪う。  喫煙習慣が無い者にとって煙草は、毒ガスに近い凶器で、松田も閉口していた。鼻まで閉じたい所だが、呼吸する必要がある。口呼吸するか、鼻呼吸するか悩む所だが、いっそうの事、喫煙者の呼吸を止めたい衝動に駆られる。せめて文句をぶつけたい所だが、唯一の喫煙者が社長だった。  松田は、気を取り直して仕事に没頭する。  さて、彼は人気ゲームの開発者の一人で、業績は順調だった。  ただ、最近になって妙な噂が立ち始め、社内ではバグの発見が急がれていた。  それは、人命に係わる事で、何と、ゲームキャラクターが人を殺すと言う物騒な物だった。 「そんな馬鹿な話があるか?」  松田を始め、他の社員も噂を疑っていた。苦情や問い合わせが多かったが、無視する。嫌がらせの類いは、人気の証しでもあった。
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