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まず、一家の家長、政夫の胸にライフルの弾が当たった。
政夫は、目を見開いたまま即死した。
卓袱台がひっくり返り、悲鳴が上がる。
正夫の妻は、二人の子供を抱き寄せ、部屋の隅で固まった。
豊雄は、脅えて震えている三人を見て、興奮していた。この無力でひ弱な動物を楽にしてやる事が、自分に課せられた指命だと思えた。
その時、あの犬鍋女が声を掛ける。豊雄に付いて離れない忌々しい女は、寄生虫が宿主を操るように絶えず存在した。
「お前にぃはぁ、力が有る。穢れた犬を人の姿から解放できるぅ」
女は狂った様に叫んだ。言葉の内容も狂っているが、豊雄は何故か理解できた。
実際、豊雄が殺害した正夫が動き出す。胸に穴を空けたまま、立ち上がった。
正夫は、狂犬病にでも感染したように唸っていた。まるで人の言葉を忘れたように獣じみていた。
そして正夫だった者は、自分の妻子に襲い掛かる。妻を絞め殺し、子供の喉を咬み千切った。
不思議な事に正夫は、妻子を貪り喰うと息絶えてしまった。
信頼すべき者に襲われ、妻子は息を引き取る。豊雄は、悲惨な光景を目の当たりにして、胃の中の犬汁が逆流した。
「お前の力は、まぁだぁ不足している。闇の王子には程遠い。もっともっと生け贄が必要だぁ」
犬鍋女が叫ぶ。
豊雄は、彼女に命じられるまま、生け贄を求めて飛び出した。
さて、豊雄は、懐中電灯とランタンを点け、電柱に登った。
ここから先は、わりと一軒一軒の間が近い。
電線を切断して暗闇にして、混乱している間に村人を襲うつもりだった。
奇怪な黒いイモムシのように、豊雄は電柱に登った。
なぜ、一心不乱にこんな事をするのか?全く理解し難かった。
“悪霊に取り憑かれている”
それ以外の形容詞が当てはまらない。
杉川村で農家を営む虎男は、突然の停電にびっくりした。
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