鬼人、走る!

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 だが、この村ではよく起こる事なので、その驚きも一時的なものだった。 「おい、停電だ。蝋燭!」  虎男は、台所の妻に向かって叫んだ。  「は~い」  遠くで妻が返事をする。  暫くすると、玄関が開く音が聞こえた。 「誰だね?」  誰かと思って襖を開けると、男が立っていた。  それは、異様な光景だった。  男は、詰め襟らしき学生服に帯を巻き、日本刀を差していた。  手にはライフルを持ち、頭には手拭いを巻いていた。  虎男を、手拭いに固定した左右二本の懐中電灯が照らす。  男が首からぶら下げたランタンが、暗闇の中に彼の顔を浮かび上がらせた。  照らされた顔は、血の気が無く、幽霊のようだった。(まばた)き一つしない目が、生理的な恐怖を呼び起こす。  それは、人間の目では無かった。 「豊雄か?」  虎男は、その首だけお化けみたいな相手に思い当たった。 「そうじゃ! おんし! わしの悪口を言い触らしたじゃろ!」  すっかり怯えていた虎男は、陸に上げられた魚のように、口をパクパクさせた。  言葉が思うように出て来ない。 「なに? 言うとらん。言うとらん」  慌てて否定するが、豊雄の決心は変わらなかった。
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