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「嘘じゃ!」
豊雄は、刀を片手で引き抜くと、虎男の肥大した腹を切り裂いた。
横一文字に赤い線が走り、腹の中で窮屈にしていた腸が、ダラリと外に出て来た。
「ぎゃああっ」
虎男は、獣のような叫び声を上げる。
反射的に飛び出した腸を元に戻そうとする。
「うるさいんじゃ!」
豊雄は、虎男の顎の下から刀を突き通し、静かにさせた。
虎男の叫び声を聞いた彼の妻は、蝋燭の灯りを頼りに廊下を急いだ。
当然の事ながら、かなり胸騒ぎがする。
その時、前から三つの明かりに照らされた。
虎男の妻は、恐怖で身動きが取れなくなった。
暗闇に浮かんでいるのは、青白い男の顔だった。
狂気を帯びた目が、彼女の方に近付いて行く。
血の匂いが、辺りに充満していた。
吐きたくなるような異臭に、女は我に返った。
「キャアアアアアッ~」
サイレンのような悲鳴が響き渡る。
逃げようとして背を向けるが、既に遅かった。
豊雄は、彼女の背中に何の躊躇いも無く斬りつけた。
斜めに斬られた彼女は、体を仰け反らせて、前のめりに倒れた。
豊雄と壁が、返り血を浴びる。
蝋燭の火が、ゆらゆらと廊下を炙っていた。
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