鬼人、走る!

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 ミシミシと、古い板廊下を歩く音がする。  男は、家の間取りを知り尽くしているのか? 迷う様子もなく先に進んだ。  廊下の突き当たりは便所になっている。  男は、その手前の障子をそっと開ける。  少しだけ開いた隙間から、中を覗き込むと、目指す獲物を発見した。    慎重に、音が立たないように障子を滑らせた。  湿気を吸った木製のレールは、もどかしいほど動きが鈍い。  だが、不用意な音を立てたく無かった。 “気付かれずに獲物に近づく!”  これが一番の醍醐味だからだ。  暗がりでも、女の白い肌の部分が判別できた。  男は、慎重に掛け布団を(めく)り始めた。  着物の裾が乱れ、女の太ももが(あら)わになっていた。  男の興奮はピークに達していた。  彼は、女に覆い被さると、着物を剥がそうとした。  さすがに、これには女もびっくりした。  慌てて枕元の電気スタンドを点ける。  白熱球に照らされたその顔には、見覚えがあった。   「何しとるん! 千吉!」  節子は、自分の貞操を奪おうとしているのが、隣の家の千吉だと知って驚いた。  隣と言ってもかなり離れているので、それほど親しい間柄ではない。
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