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あの子の前には、列ができない。 ほかのメンバーが列を回転させるあいだ、Tしか相手がいない。 あの子はかわいいが、すごくかわいくはない。 睫毛は長いが目は小さい。 丸顔だが、顎があまりに短い。 当然だが、あの子はTを拒まない。 でも彼女はどこかあたたかくない。 擬似的なものでいいのに、愛情が足りない。 Tを前にし、ブログへのコメントを唯一の足がかりに話し続けていたものの、話すネタがなくなったあの子が天井へさまよわせる視線、その中に僕は、根本的な愛情の欠如を感じなくもない。 だから人気が出ないのでは、と僕は思うが、言わない。 Tにも言わない。 そして、「もっと話題を用意していけよ」とTに言うこともない。 というか、あの子の前で顔が真っ赤になる彼にそんなことは言えない。 そんなTが先月、上司の娘と交際を始めたのだが、当然上司のはからいであり、彼から働きかけたのではない。
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