舞い上がり

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舞い上がり

 俺に気づくとさくらは驚きながら寄ってくる。ゆっくりとバスは動きだし、その窓にさっきまで手を振ってくれていた依子の姿はなかった。バスが遠くに走り去っていく。 「ヒロ、何してるの? 久しぶりだね。」  さくらの顔を見ると俺の心拍数は直ぐに上昇した。そして、姿の見えなくなった依子への後ろめたさも感じていた。  さくらとは以前帰宅途中に話をしてから実は8ヶ月くらい経つ。本当に直接会えるのは稀なのである。  中学時代はクラスも同じで毎日会えるのが当然だった。高校に入ってから会って話すのはこれで4回目だ。想いを寄せても何も行動しないで、偶然にだけ期待しているとこうなるといういい見本だ。いや、4回あるだけでもある意味奇跡なのかもしれない。 「さっき依子と話してたね」  そりゃ見られてるよな。とっさにそう思った。別にさくらからすれば俺は中学時代の同級生に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。だからどこで誰と俺が話をしようが、たいしたことでもないだろう。しかし、俺からすれば想いを寄せる人に勘違いでもされ、他に付き合っている女性がいるとでも思われたら大変な事態である。     
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