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「母上、その子は僕の!」
車椅子から立ち上がり、杖をついた状態でハムレットがチェルルの腕を引く。すると女性の力もちょっと強く引き止めるようで、妙な取り合いのど真ん中になってしまった。
「いいじゃない、これからうちの可愛い息子になるんだから。ほら、母ですよ」
「女の顔で猫くんに触らないで!」
「やだ、この子ったらいっちょ前に焼きもち? 可愛い所が残ってたのね」
「母上!!」
グッと引っ張った時、僅かだがハムレットの眉が寄った。痛いんだと分かって、咄嗟に手を取って腕から抜け、体を支えていた。
「先生、座ろう? ごめん、痛かった?」
「……猫くんのバカ」
顔を赤くして気まずそうにそっぽを向いたハムレットは、その後なかなか目を合わせようとしなかった。
「おや、既に始まっているのかな?」
「あ……」
不意にした違う声が、楽しげな様子で笑っている。ハムレットにも、アレクシスにも似たその人はとても柔らかい目でこちらを見ている。
この人をチェルルは知っている。ジョシュア・ヒッテルスバッハ。ランバートの父であり、ヒッテルスバッハの当主だ。
「あなた、お帰りなさい」
「ただいま、奥様。なんだ、ハムレットはふて腐れているのか?」
「べつに……」
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