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アルフォンスの精悍な眉が辛そうに寄る。けれど次には温かい湯に浸したタオルを絞り、それを傷のある肩に当てた。
「あ……」
気持ちがいい……
怠い感じのする部分が温まって、痺れが緩和されていく。少し冷めると再び浸し、同じように当ててくれる。そうしているうちに、随分と楽になった。
「左手、どうだ?」
「……痺れがなくなった」
握ってみても違和感はない。特に酷い親指の付け根が楽だ。
アルフォンスを振り返ると、彼はとても穏やかな表情をしてそのまま服をきせかけてくれる。そうして、使った桶などを片付けにいった。
こんな事まで気にかけてくれるのは、有り難いが申し訳ない。彼がここまでしてくれる義理はないのだから。
けれど、荒んでいるだろう心に彼の気遣いはとても染み入る。側にいてくれると穏やかになっていくような、そんな気分だ。
少し時間があって戻って来た彼は、温かなミルクと一枚の皿を持っている。その皿に乗っている物を見て、ベリアンスは思わず「あ!」と声を上げた。
フレンチトーストが、美味しそうに焼けている。ほんの少し蜂蜜がかけてある。
それを見たベリアンスの目からは、意図せずに涙がこぼれた。色んな事を思いだしたのだ。
「どうした! 嫌い、だったか?」
「違う……」
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