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落ちた涙を乱暴に拭ったベリアンスは、パンを一口大にして口に放り込む。しっかりと染みた卵液の素朴な美味しさと、柔らかなく所々が香ばしくカリッとしている。そこに、蜂蜜の甘い味がした。
「余り物のパンで、すまないが」
「余って、硬くなったパンを美味しく食べられる。そう言って、妹が時々夜食に作ってくれたんだ」
知っている、余ってしまったんじゃなく、我慢して余してくれていた。辛いのに、高い蜂蜜をかけて……
「俺が疲れている時や、頑張った時に。食べるのもやっとなのに……俺が甘い物が好きなのを知っていて、無理をして」
こんな、温かい味だった。優しさが沢山詰まった味がした。
泣きながら、夢中になって皿の中身を空にして。そうして丁寧に「ご馳走様でした」と感謝を述べた。
目の前にいるアルフォンスはずっと黙って聞いていて、「お粗末様でした」と返すとハンカチを出して、未だ止まらない涙を拭った。
「また、作ろう。特別メニューだからここでだが」
「いい、のか?」
「構わないさ。その時にはまた、話しを聞かせて欲しい」
包むように柔らかく、美味しい料理に思い出を乗せて。けれど甘さと優しさがじんわりと、硬い心に染みていったように思えた。
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