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ヒッテルスバッハ夫人シルヴィアはその後もずっとアネットの面倒を見てくれている。
馬車で二日半という距離を、臨月の彼女を移動させるわけにはいかない。そう言われ、生まれるまでは所領で過ごすことを半ば強引に決めてしまい、今にいたる。
「ほら、早めに向かわないと。子供は予定通りに生まれてくれないものだからね」
「分かっています。ハァ!」
馬の腹を蹴って更に歩みを進める二人は、その日の夕方には所領へと到着したのだった。
屋敷に到着すると何かとバタバタ人が動いていて、とても取り合ってもらえる感じがしない。執事からメイドから、真新しいシーツやぬるま湯を運んでいる。
「え? え!」
「おや、これはドンピシャだったかな」
「あっ……アネット!」
思わず駆け出すようにメイドを捕まえてみれば案の上だ。昼ほどに産気づき、今は医者とシルヴィアが付き添っているそう。日にちとしては五日ほど早いお産だ。
「とりあえず部屋に行ってみよう。まだ会えるなら、一言声をかけるといい」
ジョシュアにそう言われ、教えて貰った部屋へと向かうとドアは開けっぱなし。そして苦しそうな彼女の声が聞こえる。
「あら、いいタイミングね。もう少し生まれないから、顔見せて声かけてあげて」
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