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不安ごと抱きしめて
そこは戦場だった。建物は崩れ、あちこちから煙が上がる。そして、色んなものが焼ける臭いがする。
既に戦闘は終わっていて、瓦礫の中をランバートは走っていた。息が切れて、心臓は嫌な感じで鳴り響いて、不安に黙っていられない。
行き過ぎる人々、騎士団の仲間、そして倒れている人々。それらを全て無視して、ランバートはただ一人の元へと急いでいた。
やがて、人の集まる場所が見えた。エリオットが、シウスが、クラウルが側にいて、悲愴な顔をしている。エリオットとシウスは涙を流し、クラウルは悔しげに硬く手を握っている。
「あ……」
人が割れて、横たわる人を見て、ランバートの心臓は止まりそうな程に締め上げられた。
その人は、綺麗な顔をしていた。白い肌は余計に白く見えて、静寂の黒に口元の赤だけが鮮烈に見える。そしてその胸には剣が一本、深く突き立っていた。
ヨロヨロと近づいていって、すぐ脇に崩れ落ちた。静かに目を閉じた人の冷たい頬を、愛しげに撫でた。
「ファウ……スト……」
そんなはずはない。こんな日はこない。この人は化け物みたいに強くて、殺したって死なないくらいで、こんな簡単に消えてしまうような、そんな……
では、今目の前にあるのはなんだ。この冷たい体はなんだ。口元から滴る赤はなんだ。胸に突き立ったこれはなんなんだ!
「あ……うわぁぁぁぁぁ!!」
喉が裂けるような痛みがあっても、叫ぶ事をやめられない。心が死んで、時が止まるのを感じる。最愛を失う瞬間、ランバートも死ぬのだと思い知り、止まっていく時に思考が間延びしていった。
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