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対応してくれた人は御者だと言う。とてもそんな風に思えない風格と振る舞いがあった。そつがなくて。祖国だったらきっと執事で通る。
馬車が走るにつれて緊張が増してきた。心臓がすぐ側で鳴っているみたい。ちょっと吐き気もするような不安がチェルルを無言にした。
「猫くん」
「あっ、なに?」
「そんなに怖い顔しないで。大丈夫だからね」
「そんな顔、してた?」
「してた」
呆れた顔をしたハムレットが少し体を寄せてくる。ほんの少し痛そうな顔をして。
「先生!」
「側、きて」
甘えるみたいに言われると申し訳ない。心配させてしまったんだと思うと不甲斐なさを感じてしまう。
隣りに座ると、ハムレットは体の全部を預けるみたいに凭りかかってくる。そして嬉しそうな顔をした。
やがて馬車は綺麗な邸宅へと入り、ポーチのついた玄関の前にきっちりと停車する。御者の青年が足台を置いてくれて、チェルルは乗った時とは逆にハムレットを立ち上がらせ、ゆっくりと足元を気にしながら下りていく。
その時には車椅子の準備ができていて、ハムレットをそこに乗せた。
「こちらをお使い下さい」
見れば階段の脇にスロープがある。そこを通って中へと入ると、屋敷のメイドや従者、執事が両サイドに並んで一斉に頭を下げた。
「お帰りなさいませ、ハムレット様、チェルル様」
「!」
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