【おまけ1】借りてきた猫(チェルル)

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 圧倒的な雰囲気に足が竦んだ。ここを本当に通っていいのか、分からなかった。 「猫くん、大丈夫」 「先生」 「進んで」  穏やかに、そして静かに言われてチェルルは息を飲み、踏み出した。これはあくまでこの家の子息であるハムレットへの礼節であり、チェルルはそれにつきそう召使いみたいなもの。そう思うと、少し楽に進めた。 「お部屋は一階にしてありますので、ご案内いたします」  一番奥に控えていた老齢な執事が声をかけてくれる。人好きのする人で、チェルルにも温かな視線を向けてくれた。 「有り難う、爺。悪いけど少し疲れたから休みたい」 「畏まりました」  老執事の案内で一階の奥へと向かったチェルルは、喉がカラカラに渇いていくのを感じた。  廊下の装飾や、行き届いた手入れや掃除一つとっても凄い。城も凄いと思ったけれど、それと同等だ。  そしてこんな家の人が自分の恋人なんだと思うと、少し遠く感じてしまう。本当にこのままでいいのか、分からなくなってきてしまう。  部屋はそこだけで家みたいだった。入ってすぐのリビングには暖炉もあって寛げる空間になっているし、ドアを開ければ寝室がある。当然室内に浴室も完備だ。     
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