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序
「いらない子だったのかなぁ」
テレビで幼児虐待死の特集を見ながら、小学校に勤める私は苦い思いでつぶやいた。
家族に暴力を振るう父親。新しい恋人に夢中になって、子育てをないがしろにするシングルマザー。経済的に恵まれないにもかかわらず、子どもを次々と産み、我が子に食事すら満足に与えられない家庭――。そんな事例をいくつも見た。
「育てられないなら、産まなきゃいいのにね」
同意を得たくて、一緒にテレビを見ている祖母を振り向く。
「まあ、そうだねぇ」
今年八十四になる祖母は、曖昧な短い返事をして、茶をすすった。
「何だか、最近こういうニュース多くない? 虐待死が増えてるのかな。それとも、事件の発生率は変わらないけど、報道されるから増えてるような気がするのかな」
「そうかもねぇ」
「子はかすがいって言葉があるぐらいだから、昔はもっと子どもを大事にしていたんだろうに――」
と言いかけて、江戸時代には盛んに間引き――いわゆる子殺しが行われていたことを思い出す。
「そうでもないか。昔は避妊の知識も技術もなかっただろうし。食いぶちを減らさなくちゃならないことがあったんだろうね」
「まあねぇ」
「そう言えば、おばあちゃん、八人兄弟だっけ。おじいちゃんも八人兄弟だよね。昔は、どこも子だくさんだよね」
「うちの実家は恵まれていたけど……」
嫌なことでも思い出したのか、祖母の表情がにわかに暗くなる。顔はテレビを向いていたが、その目はぼんやりと宙を見つめていた。
「戦後は、とにかく物がなくてね。飢えて死ぬ人もいたぐらいだから、当然、子どもを養えない家はたくさんあった」
湯飲み茶碗を置き、やがて祖母はポツポツと語り出した。
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