3人が本棚に入れています
本棚に追加
冷蔵庫にあったもので遅い昼食をとって、時間が流れるままにぼけっとしていた。そのうち居間に夕日が差し込んで眩しさに目を細めた。視界の端を、ふうっと通り抜けたものがあった。
「しゅういちくんしゅういちくん」
姿を認めたのと同時に、甘い花の香りが鼻孔をくすぐる。彼と祖母風に言えば、口当たりの軽いやつ。
「ちよちゃんはどこ」
お下げにちょこんとリボンを結んだ少女は、部屋の様子をその身に透かしながらふよふよと天井を漂っている。彼女の着物の袖もひらひら舞う。
丁度そのとき彼の携帯電話がメールの着信を知らせた。開くとまだ荷物を広げる前の木調の部屋の写真と、『今日からここに住みます』という一文が添えられていた。写真を表示した画面を少女に見せる。
「千代さんはここ」
「どうして?」
「千代さんだから」
ちよちゃんだから、と少女は含むように言って、それからぱっと笑顔を見せた。ちよちゃんだから、と何度も繰り返してくすくすと笑う。
それを眺めていた舟市も、千代さんだからなあと段々気持ちが落ち着いてきて、少女がいてくれたことに感謝した。『きれいなところだね』と返事を送信して立ち上がる。
「日が暮れてきたし、そろそろ行こうかな」
とりあえず着替えよう、と舟市は気分を変える。
最初のコメントを投稿しよう!