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ままごととして口を閉じた彼女は、なぜか口の中にどろりとした感触が広がったのが不可解だった。歯が何かを噛んだ。悪寒が奔りすぐさま台所の流しに何かを吐きだそうとして――
ぐちゃりと潰れて唾液にまみれた小さな目がぷつぷつと飛び出した何かに悲鳴を上げ、そのまま気を失って倒れた。
それでようやく彼は知ったのだ。あれは自分以外には食べ物ではなかったのだと。
泣きながらごめんなさいと謝ったことは覚えている。
気づけば舟市は祖父母のところに預けられ、こっそり影を食べるところを目撃した祖母がしみじみと言った。彼女の傍には見知らぬ少女が浮いている。
「悪食って遺伝するのねえ」
まずいところを見られて硬直していた彼を余所に、祖母はその辺を漂っていた黒くてふわふわしたものを摘まむとぱくんと食べた。「あらこれはいける」と言ったところにその頃まだ生きていた祖父が現れて、「何味だった?」「日額(ひぬか)屋さんの和三盆みたい」「上品なものだなあ」と会話する。
「おじいちゃんには食べさせちゃ駄目よ、胃が丈夫じゃないから」
何でもないように言った祖母に舟市はわんわん泣きついて、それからはずっと祖父母の家で暮らしている。
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