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子どもの怪我
「ちょっと!」
甲高く鋭さのある声に呼び止められカルネは足を止め振り返った。
瞬間、目の前に子どもの腕を突き付けられた。
「この傷! どうして放っておいたままなんですか!」
声をかけてきたその女性は、子どもの腕をカルネに突き付けながらキンキンと耳障りな声で叫んだ。
――ああ、またか
女性の声に周りにいた子どもや親が距離を置くのを肌で感じながら、カルネはその子供の腕を見る。
パッと見ではわからないが、よくよく見ると赤みを帯びた皮膚があり、何かにこすったような皮膚が少しばかりはがれた跡があった。
「どこかでこすった傷ですね」
舐めときゃ傷がわからなくなる程度だな、と思いながらカルネが顔を上げると。
女性が怒りで満ちた顔で目をギラギラと滾らせていた。
「こすった、じゃないでしょう! 何で治さないんですか!」
唾を飛ばさんばかりの罵声にカルネは耳を塞ぎたくなるのを堪え、いつもの笑顔を何とか張り付ける。
子供の目の前で大人同士が怒った顔を突き合わせるのは、精神教育としてよろしくない。
「治さない、とは?」
カルネの問いに「先生はバカなんですか!」と女性は叫ぶ。
「何故、回復魔法できっちり傷を治さないのですか! これは職務怠慢じゃないですか!?」
――ああ、やっぱり
予想通りの言葉に、笑顔を張り付けつつもカルネは内心ため息を吐く。
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