子どもの怪我

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カルネは不思議そうに首を傾げた。 「お父さんは、わからないことをわからないままにするのですか?」 てっきり、カルネから「そんなの努力してください!」だのと罵倒されると思っていた父親は拍子抜けたように「へ?」と間抜けな声を上げた。 「ですから、わからないことをわからないままにするのですか? 冒険中道に迷っても、わからないままにするんですか?」 冒険、というワードに父親は「まさか!」と声を上げた。 「そんなわけないじゃないですか。わからなくなれば地図を見ればいいし、地図がなければ通りすがりの人に聞けば―――」 そこまで言って、父親はハッと言葉を止める。 その様子にカルネはにっこり笑った。 「ほら、答え出ましたね。わからなければ聞けばいいじゃないですか」 2人のやり取りに、テトリの母親も「あ、そっか」と口に手を添え驚いていた。 「私でも、他の先生でも。何だったら、同じ年代の子を持つ冒険者じゃない親でもいいんです」 カルネはいつも張り付ける笑顔ではない、心の底からの笑みを見せた。 それはとても柔らかく、人の心を安心させる微笑みだった。 「それでわからなかったら、私に八つ当たりしていいですよ。やりすぎの説教をした分責任とってさしあげます」 そのカルネの言葉は。 まだ子育てについて悩みの多い2人にはありがたい言葉だった。 特にテトリの母親にその言葉は響き、テトリ以上にポロポロと涙を零した。 「カルネ先生……ありがとうございます」 「これからもよろしくお願いします」 頭を下げた母親に倣い、父親も深々と頭を下げてそう告げた。
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