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「……ん…………はっ!」
伏していたレイラは目を覚ますと勢いよく起き上がった。
頬に感じる砂の感触に、今自分が競技をしていたことを思い出したのだ。
状況は?
そう思い顔を上げた瞬間。
バーーーン!
勢いのある破裂音が頭上から聞こえた。
同時に、重い物が傍に二つ落ちる音が聞こえ、砂煙が上がった。
「ケホッ……」
口に手を当て砂埃を吸うのを避け、目の前に立ち込める砂煙を払いのける。
とはいえ砂煙が立ち込めたのは一瞬で、すぐに視界は晴れた。
そして、落ちてきたものが、仲間の2人だと知った。
あの破裂音により何か攻撃か、魔法を受けたのか。
2人は深い眠りに落ちていた。
「そんな!」
そこで、ハッとして自分の頭を触った。
バンダナが、ない。
身体を探り、立って足元を見るが、ない。
どこにもあの目立つ赤いバンダナはない。
仲間の方を見ると、仲間の頭にも、傍にも、どこにもない。
もしかして下敷きになっているのでは、と仲間を起こそうとした瞬間。
「アヌレイ選手、見事3つ全てのバンダナを獲得! よって、勝者アヌレイ選手とタイタン選手!」
マレーヴェの言葉に、わずかな希望が打ち砕かれた。
親衛隊の副隊長であるレイラは真っ青になって崩れ落ちた。
「そんな……ディバル様に……約束したのに」
試合に出る前、レイラ達はディバルに「期待しているぞ。勝ちをとった暁には……褒美をやろう」と言われ、俄然やる気が出て「ディバル様のために必ずや勝ってみせます!!」と豪語した。
だが結果は負け、どころではなく、完敗。
相手に傷一つさえつけることは出来なかった。
殺すつもりで構わぬ、と言われたからこそ、自分たちの持っているスキルや技を全て惜しみなく出し切ったのに、だ。
相手は余裕たっぷりにこちらを圧倒した。
何が、保育士だ。
化け物じゃないか。
相まみえてわかったが、あれはマヴァイス国に居る誰も勝てないのではないか、と思えるほどの実力だった。
無邪気な表情をしていて全く心を読み取らせない戦い方。
ふざけているように見えて、鋭く急所をつきこっちを戦闘不能にする鮮やかな技。
自分の無力さをひしひしと感じ、レイラは涙を零した。
きっと、ディバルに絶望されることだろう。
親衛隊隊長にも、「失望したわ」と呆れられるだろう。
待機席にもどってからのことを思うと胸が張り裂けそうなほどの口惜しさと悲しみにさいなまれた。
「いやー、なかなか手ごわかったかな」
不意に、敵の声が聞こえ顔を上げた。
そこには、白衣を身に纏った美男子がいた。
キラキラと輝くオーラを身に纏うアヌレイにレイラは一瞬胸をときめかせるが、急いで首を横に振る。
――そう、こいつは女だ
するとアヌレイが目の前で跪き、レイラの頬に優しく触れた。
「一番手強いから、手っ取り早く戦闘不能にしちゃって、ごめんね?」
少し首を傾けて微笑む姿はただただ美しく。
レイラの頬がバラ色に染まるのは仕方がなかった。
「こんなので終わるのはもったいないし、また機会があったらゆっくりお手合わせ願いたいな」
そう言いながら、アヌレイはレイラの手を開き、その中に一切れの紙を握らせる。
優しいが、強引な手つき。
「これ、私の連絡先。……また、ゆっくり遊ぼうね?」
そう言って、軽い口づけを額に落とす。
そしてアヌレイは離れ、アンファンの待機席に向かって「終わったぞー!!」と嬉しそうに駆けていった。
残されたレイラは手を開き、少し皺のついた紙を開く。
”連絡待ってるよ byアヌレイ”
簡潔な一言と共に書かれた連絡先。
この瞬間レイラは。
紙を握りしめ、アヌレイ親衛隊となる決意をするのだった。
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