平和的戦争=運動会

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待機席に戻ると、アヌレイは「カルネー! 私の華麗な技見た? ねぇ見た? すごいだろー?」と得意気にカルネに駆け寄った。 が、カルネはそれをまるで聞こえもしないし見えもしなかったかのように華麗にスルーし、タイタンの方へ向かった。 それに重いショックを受け暗雲をたちこませながらしゃがみ込み地面に”ヒドイ”の文字を書き続けるアヌレイをケトがあわあわと慰める一方で、まさか一番に自分のところに来てくれるとは思わなかったタイタンはあまり変わらない表情を少し輝かせた。 カルネはタイタンの前に立つと、真剣な面持ちで見つめる。 そして静かなトーンで、告げた。 「競技が終わったら、全て告げるわよ」 その表情に言葉の意味を汲み取ったタイタンは、表情を引き締めると「わかりました」と頷き、続けた 「告白の返事をくれるんですね」 ドスッ 渾身の鉄拳をタイタンの腹に打ち込んだカルネは、その不意討ちに流石に蹲るタイタンを足蹴にして職員たちの方を向き「何も聞いていない、いいわね?」と、ドスの効いた声で言った。 勿論全員頷き、事情を知っているアルキネは「あらやだ、面白い」とクスクス笑っていた。 アロは笑いを堪えながら「貴方の素性のことよ」と声をかけた。 「ぐふ……ああ、そういうことですか……うぐ……きいた」 呻きながらちゃんと理解をしたタイタンに、園長が「好きな人の一撃はやはりよく効くものねぇ」と感心したように言った。 「ちょ、園長まで!」 「カルネ」 顔を赤らめ慌てたが、突然の園長の低い声にカルネの表情が固まる。 だがその声音よりも、何より。 呼び捨て、だった。 アンファンにカルネが職員として働くと決めてから。 必ず”先生”をつけると園長自らが約束したのに。 アンファンに入ってから初めて、その約束を破った。 「リアリド……?」 だから思わずカルネも。 園長先生、をつけるのを忘れた。 「あの子から聞いたとは思うけど、もう背負わなくていいの。貴女の気持ちに正直に生きなさい」 園長はそう言うとカルネの頬にそっと手を添えた。 「言ったでしょう? 絶対守るって」 他の職員はこの会話の内容がさっぱり理解できなかった。 理解できたのは、タイタン、アヌレイ、アルキネの3人のみ。 暫し、その場は沈黙に包まれた。 戸惑い、視線をさまよわせていたカルネは悩むように、タイタン、アヌレイ、園長を何度も見た。 そして、決意したように口を開こうとするが、また迷うように閉じ、だがやはり、とケジメをつけるように口を開き「リア……」と言葉を発したその時だった。 「それでは次の競技にうつります! 次の競技はー、観客参加型だー!」
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